表面利回りが高く見える一棟物件でも、運営費、借入返済、大規模修繕、売却条件まで入れると判断は変わります。この記事では、大阪市内にある1996年築(2026年6月時点で築29年)・売出価格2億円の一棟マンションを例に、購入判断の順番を整理します。
この事例について
物件条件は匿名化し、画像は記事内容を説明するために生成したイメージを使用しています。実際のA物件や現地調査の写真ではありません。
A物件の概要と試算条件
スマートフォンでは、表を横に動かして確認できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地・構造 | 大阪市内、近鉄沿線、鉄骨造7階建 |
| 売出価格 | 2億円 |
| 築年数 | 1996年築(2026年6月時点で築29年) |
| 総戸数・稼働状況 | 20戸、現況19戸入居 |
| 年間賃料 | 現況1,278万2,400円/満室想定1,340万6,400円 |
| 表面利回り | 現況6.39%/満室想定6.70% |
| 法令・出口上の確認点 | 検査済証なし。融資・改修・将来売却への影響を確認する |
試算の前提
空室損8%、管理委託費5%、税金・保険・共用部費・小修繕・募集費などを概算しています。これらは公的な基準ではなく、比較のための仮定です。実際の判断では、公課証明書、管理契約、修繕履歴、見積書、金融機関の提示条件で置き換えてください。
30秒で分かる結論
この物件は、表面利回り6.70%だけでは購入判断できません。
運営費を差し引いた安定NOI利回りは約4.76%。2割の自己資金を入れてもDSCR(返済余力)は約1.17です。さらに大規模修繕として年150万円を引き当てると、返済後収支は年間約11万円のマイナスになります。
検討の分かれ目は、価格を調整できるか、自己資金を厚くできるか、修繕計画を具体化できるかの3点です。
読み進め方:まず運営収支と返済余力を計算し、次に修繕・法令、出口、購入条件の順で確認します。
1. 表面利回りを実際の運営収支へ直す
表面利回りは物件を見比べる入口です。購入判断では、満室賃料から空室損と運営費を引き、物件そのものが生む収益であるNOIを確認します。
| 計算項目 | 年間金額 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 満室想定賃料 | 1,340万6,400円 | 広告上の上限。満室が続く前提にはしない |
| 空室・募集損失 | ▲107万2,512円 | 満室想定の8%を仮置き |
| 実効総収入 | 1,233万3,888円 | 実際に入ると想定する賃料収入 |
| 運営費合計 | ▲280万6,694円 | 管理、税金、保険、共用部、小修繕、募集費など |
| 安定NOI | 952万7,194円 | 借入返済前の物件収益 |
安定NOI利回りは約4.76%です。広告上の6.70%との差は約1.94ポイント。この差が、空室と運営費を入れたときの現実的な下がり幅です。
最初に覚えたい3つの用語
- 表面利回り:年間満室賃料を価格で割った、広告上の比較数字
- NOI:賃料収入から空室損と運営費を引いた、物件の純営業収益
- DSCR:NOIを年間返済額で割った、借入返済の余裕
2. 借入返済後に現金が残るか
NOIが黒字でも、借入返済後の現金が十分に残るとは限りません。融資条件ごとに、返済余力と年間の手残りを比較します。
| シナリオ | 融資条件 | DSCR | 返済後の年間収支 |
|---|---|---|---|
| フルローン | 2億円、2.5%、30年 | 約1.00 | 約4万円。返済余力がほぼない |
| 2割自己資金 | 1.6億円、2.0%、25年 | 約1.17 | 約139万円。修繕引当前でも余裕は薄い |
| 3割自己資金 | 1.4億円、2.0%、25年 | 約1.34 | 約241万円。返済余力は改善する |
この融資条件で確認すべきこと
2割自己資金では、年150万円の修繕予備費を確保した後の収支が約11万円のマイナスです。購入価格、自己資金、修繕資金のどこで余白を作るかを決めてから検討を進めます。
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3. 1996年築で優先したい修繕と法令確認
1996年築の7階建では、室内の見た目よりも、給排水、屋上防水、外壁、エレベーターなどの高額設備を優先して確認します。
| 確認項目 | 今回の概算幅 | 購入前に見る資料 |
|---|---|---|
| 屋上防水・外壁 | 800万〜1,250万円 | 施工履歴、保証書、打診調査、見積書 |
| 給排水管 | 300万〜600万円以上 | 管種、漏水履歴、更新範囲、内視鏡調査 |
| エレベーター | 500万〜800万円 | 保守契約、部品供給、更新提案書 |
| 消防設備・受水槽など | 100万〜300万円 | 点検報告書、是正記録、更新履歴 |
費用幅は建物規模、仕様、劣化状況で大きく変わります。概算をそのまま購入判断に使わず、現地調査と見積で更新してください。
検査済証がない場合
検査済証がないことだけで、直ちに違法建築と決まるわけではありません。ただし、金融機関の融資、改修工事、用途変更、将来売却では追加確認を求められることがあります。
- 確認済証、建築計画概要書、台帳記載事項証明を集める
- 増改築履歴と現況図面の違いを確認する
- 融資候補の金融機関へ、審査上の扱いを事前確認する
- 必要に応じて建築士へ現況調査を相談する
制度や調査方法は更新されるため、国土交通省の既存建築物の活用に関する最新案内も確認してください。
4. 5年後・10年後の出口を考える
この物件は5年後に築34年、10年後に築39年です。出口価格は、売主の希望ではなく、次の買主が利用できる融資条件と、修繕履歴の整い方に左右されます。
下振れシナリオ
- 賃料が5%下落し、年間賃料が約1,214万円になる
- 出口表面利回りを7.5%で見ると、売却価格は約1.62億円になる
- 修繕未実施や資料不足があると、買主が限定されやすい
基本シナリオ
- 現況賃料を維持し、年間賃料が約1,278万円となる
- 出口表面利回りを7.0%で見ると、売却価格は約1.82億円となる
- 修繕履歴、法令資料、入退去記録がそろっていれば説明しやすい
将来の売却では、地元投資家、法人、業者、現金購入層など、どの買主が検討できるかを取得前に想定しておくことが重要です。
5. この試算条件での購入検討レンジ
「適正価格」を断定するのではなく、必要なNOI利回りと返済余力から、検討しやすくなる条件を逆算します。
| 逆算方法 | 試算結果 | 読み方 |
|---|---|---|
| NOI利回り5.2% | 約1.83億円 | 安定NOI952万7,194円を基準に逆算 |
| DSCR1.25・借入80% | 約1.87億円 | 年間返済に一定の余裕を持たせる目線 |
| 両条件を満たす交渉目線 | 1.80億〜1.83億円 | NOI利回り5.2%を優先。調査結果と見積でさらに調整する |
2億円で検討する場合は、自己資金を厚くする、取得後すぐに収支改善を行う、修繕費を別枠で確保するなど、価格以外の条件改善が必要です。
6. 検討しやすい投資家・慎重に判断したい投資家
検討しやすい投資家
- 自己資金と修繕費を別々に確保できる
- 築古一棟の運営経験があり、収支改善を実行できる
- 修繕計画と出口戦略を金融機関へ説明できる
慎重に判断したい投資家
- フルローン前提で、毎年の手残りを最優先している
- 大規模修繕費を資金計画に入れていない
- 検査済証なしの物件で、融資や出口を確認した経験がない
7. A物件を判断する購入前チェックリスト
- 満室賃料ではなく、空室損と運営費を入れてNOIを再計算したか
- 金利が1%上がっても、修繕予備費を確保した後に返済余力が残るか
- 頭金に加え、取得諸費用と初期修繕予備費を自己資金へ含めたか
- レントロール、入金履歴、募集期間から、退去後も賃料を再現できるか
- 屋上防水、外壁、給排水、エレベーターの履歴と見積を確認したか
- 検査済証なしについて、金融機関と建築士へ確認したか
- 5年後・10年後の売却価格、残債、想定する買主を考えたか
- この一棟を買った後も、手元資金と次の融資余力を残せるか
まとめ
この事例で先に決めるのは、「買うか」ではなく「どの条件なら買えるか」です。
試算上の交渉目線は1.80億〜1.83億円です。2億円で進めるなら、自己資金を厚くするか、修繕費を別枠で確保し、出口まで説明できる状態にする必要があります。
次の一棟について、候補物件の数字をどこから確認すればよいか迷っている方は、収支・融資・修繕リスクの整理をご相談ください。購入を勧める前に、判断に必要な資料と数字を一緒に確認します。
試算に関する注記
本記事は、匿名化した物件条件をもとにした概算シミュレーションです。掲載した空室率、運営費、修繕費、金利、返済期間、購入検討レンジは、個別物件の査定額、融資承認、将来収益を保証するものではありません。
実際の投資判断では、売買契約書、重要事項説明書、登記簿、公課証明書、レントロール、賃貸借契約書、修繕履歴、現地調査、金融機関の融資条件を確認し、必要に応じて税理士、建築士、弁護士などの専門家へ相談してください。