今回は一棟収益物件で規模を拡大するフェーズにおいて購入判断に使えるレベルまで掘り下げたいと思います。
今回は実際にレインズに登録されていた物件を参照しました。
尚、広告不可で楽待掲載はされていなかった物件です。
- 対象:1〜2棟保有後、次の一棟を検討する個人投資家
- 想定物件:大阪市内・築29年・一棟マンション
- 記事の目安:約18〜22分
表面利回りから購入判断までの分解図。「高い表面利回り=良い物件」ではなく、融資返済後・修繕後・売却時まで含めて判断する必要があることを示しています。
実物件データで読む「数字の現実」
収益物件の資料には、投資家が見たい数字がきれいに並びます。ところが、購入後に成否を分けるのは、掲載された表面利回りではなく、家賃が維持できるか、修繕費がどれだけ出るか、融資返済後に現金が残るかです。ここでは、A物件の資料上の数字を投資判断用の数字に変換します。
A物件 基本スペック。大阪市内・近鉄沿線・鉄骨造7階建マンション
- 2億円 売出価格
- 6.70% 満室時表面利回り
- 6.39% 現況表面利回り
- 20戸 総戸数(1K/1DK/2DK)
- 19/20 現況入居戸数
- 築29年 1996年築
現況賃料と満室想定の差分
| 項目 | 月額賃料 | 年間賃料 | 表面利回り | 読み取り方 |
|---|---|---|---|---|
| 現況:19戸稼働 | 1,065,200円 | 12,782,400円 | 6.39% | 現在の収入。融資審査では現況収入を重視されやすい。 |
| 満室時:20戸 | 1,117,200円 | 13,406,400円 | 6.70% | 広告上の上限値。実際は空室率・募集期間を控除する。 |
| 空室1戸分 | ▲52,000円 | ▲624,000円 | 0.31pt差 | 1戸の空室でも年間60万円超の機会損失。 |
この物件は「数字の顔は良いが、融資・修繕・出口で差が出る案件」
売出価格2億円、満室表面利回り6.70%、現況稼働19/20戸という数字だけを見ると、規模拡大を狙う投資家にとって検討対象に入る物件です。ただし、築29年・鉄骨造・7階建・検査済証なしという条件を踏まえると、表面利回りよりも「修繕後の実質キャッシュフロー」と「5〜10年後に誰が買える物件か」が本質的な論点になります。
- 投資判断の中心 表面利回り6.70%ではなく、安定NOI利回り4.7〜4.9%前後で評価する。
- 最大リスク 給排水管・屋上防水・外壁・EVなど、築30年前後で集中しやすい大規模修繕。
- 融資の焦点 残耐用年数・検査済証なし・DSCR不足を金融機関がどう見るか。
- 実務上の結論 2億円満額では薄利。価格交渉、自己資金追加、修繕費見込みの明確化が必要。
プロが最初に見るのは「良い物件か」ではなく「数字が信用できるか」
この物件の第一印象は、現況稼働率95%で悪くありません。しかし実務では、入居率の高さそのものよりも、現在の入居が継続性のある入居なのか、賃料が相場より高すぎないか、短期解約や滞納がないかを確認します。収益物件の失敗は、購入時点の表面利回りが低いことよりも、「買った後に想定賃料が維持できなかった」「修繕で数百万円単位の資金が抜けた」ことから起きやすいからです。
レントロールで必ず確認する項目
| 確認項目 | 見る理由 | 危険サイン |
|---|---|---|
| 入居開始日 | 長期入居者が多いと、現在賃料と市場賃料の乖離が起きやすい。 | 10年以上入居が多く、退去後賃料が下がる可能性がある。 |
| 賃料単価 | 同じ間取りでも階数・広さ・設備で賃料差がある。 | 特定住戸だけ相場より高く、退去後に再現できない。 |
| 保証会社・連帯保証人 | 滞納時の回収可能性に直結する。 | 保証会社なし、古い契約、属性不明の入居者が多い。 |
| 敷金・礼金・更新料 | 退去時精算と短期解約リスクを判断する。 | 初期費用が極端に低く、入退去が頻繁に起きやすい。 |
| 滞納履歴 | 表面上は入居中でも、実質的な収益性が落ちる。 | 1〜2か月滞納が慢性化している住戸がある。 |
実務メモ 現況賃料1,065,200円を19戸で割ると、1戸あたり平均は約56,063円です。1K・1DK・2DK混在のため単純比較はできませんが、築29年の単身・小規模住戸では、退去後に設備更新をしないと現賃料を維持できない可能性があります。投資判断では「現行賃料」ではなく「退去後に再募集できる賃料」で計算するのが安全です。
利回り計算の深層: 表面 ・NOI・CCR・IRR
収益物件の利回りは、段階を分けて見ます。広告で見える表面利回り、運営後の実力を表すNOI利回り、自己資金効率を見るCCR、売却まで含めるIRRです。どれか一つだけで判断すると、物件の見え方を誤ります。
① 表面利回り:比較用であり、購入判断用ではない
計算式 表面利回り = 年間満室賃料収入 ÷ 購入価格 × 100 A物件:13,406,400円 ÷ 200,000,000円 × 100 = 6.70%。ただし、管理費・税金・保険・修繕費・空室損失・取得諸費用は含まれません。
② 安定NOI:プロが実質評価で使う数字
NOIは、賃貸運営によって生まれる純営業収益です。借入返済、所得税・法人税、減価償却、売却損益は含めません。物件そのものの収益力を比較するための指標です。
A物件 安定NOI試算(年間ベース)
| 項目 | 金額 | 考え方 |
|---|---|---|
| 満室想定賃料 | 13,406,400円 | 物件資料上の年間満室賃料。 |
| 空室・募集損失 8% | ▲1,072,512円 | 築古・単身系住戸では、満室前提より保守的に見る。 |
| 実効総収入 EGI | 12,333,888円 | 実際に入ってくると想定する運営収入。 |
| 管理委託費 5% | ▲616,694円 | 集金・募集・入居者対応の委託費。 |
| 固定資産税・都市計画税 | ▲600,000円 | 概算。実際は公課証明書で確認。 |
| 火災保険・地震保険 | ▲150,000円 | 築古・中高層・構造により変動。 |
| 共用部電気・水道・清掃 | ▲240,000円 | 7階建の共用部運営費として概算。 |
| 小修繕・設備交換 | ▲600,000円 | エアコン、給湯器、水栓、照明、建具等。 |
| 原状回復・AD・募集費 | ▲500,000円 | 退去2〜3戸、広告料、軽微なリフォームを想定。 |
| 会計・雑費・予備費 | ▲100,000円 | 会計処理、証明書取得、交通費等。 |
| 安定NOI | 9,527,194円 | 物件の営業収益力。 |
NOI利回り 9,527,194円 ÷ 200,000,000円 × 100 = 約4.76% 表面利回り6.70%から見ると約1.94ポイント低下します。この差が、投資家が実際に負担する運営コストです。
③ 大規模修繕引当後のキャッシュフローを見る
築29年の一棟物件では、通常のNOIだけでは甘くなります。外壁、屋上防水、給排水、エレベーターなどの大規模修繕は、毎年均等に出る費用ではありません。しかし投資判断では、将来の支出として毎年引当てたうえで判断する必要があります。
NOIから投資判断用キャッシュフローへの調整
| 項目 | 金額 | 意味 |
|---|---|---|
| 安定NOI | 9,527,194円 | 通常運営ベースの純収益。 |
| 大規模修繕引当 | ▲1,500,000円 | 5〜10年以内の修繕集中に備える内部留保。 |
| 修繕引当後NOI | 8,027,194円 | 保守的な投資判断に使う数字。 |
重要な修正視点 取得諸費用を自己資金に含めず、単に「借入返済後のCF ÷ 頭金」でCCRを計算すると、自己資金効率を過大評価します。2億円物件では、仲介手数料、登記費用、不動産取得税、融資手数料、火災保険、初期修繕予備費まで含めると、自己資金は頭金4,000万円だけでは足りません。
④ CCR:自己資金に対してどれだけ現金が戻るか
CCR試算:借入1.6億円・金利2.0%・25年・元利均等
| 項目 | 金額 | 補足 |
|---|---|---|
| 安定NOI | 9,527,194円 | 上記試算。 |
| 年間返済額 | ▲8,138,003円 | 1.6億円・2.0%・25年の概算。 |
| 税引前CF | 1,389,191円 | 税金・減価償却・元本返済後の簿価影響は別途。 |
| 頭金 | 40,000,000円 | 価格2億円の20%。 |
| 取得諸費用・初期予備費 | 15,000,000〜20,000,000円 | 仲介、登記、融資、取得税、初期修繕余力。 |
| 実質自己資金 | 55,000,000〜60,000,000円 | 規模拡大時はこの資金拘束を見る。 |
| CCR | 約2.3〜2.5% | 1,389,191円 ÷ 5,500万〜6,000万円。 |
CCRが2%台ということは、キャッシュフロー目的の物件としては強くありません。この物件を買う理由があるとすれば、単純な毎年の手残りよりも、土地価値、将来の建替え余地、保有資産の拡大、金融機関との実績形成、賃料改善余地などを加点できる場合です。
⑤ IRR:売却まで含めた投資効率
IRRは、保有中のキャッシュフローと売却時の手残りを合わせた投資効率です。築古物件では、売却時に融資が付きにくくなるため、IRRは出口価格に強く左右されます。
DOWN SIDE 賃料5%下落・出口表面利回り7.5% 年間賃料:約1,214万円 売却想定:約1.62億円 売却時に買い手の融資が厳しくなる 大規模修繕未実施なら価格交渉を受けやすい
BASE / UP SIDE 賃料維持・出口表面利回り7.0% 現況賃料ベース:約1,278万円 売却想定:約1.82億円 修繕履歴が整っていれば買い手が付きやすい 修繕履歴と資料整備で出口価格を守る
プロの見方 築古物件の出口価格は、「買主がいくら欲しいか」ではなく「次の買主がどの融資条件で買えるか」で決まります。5年後に築34年、10年後に築39年になるため、現時点で出口の買主属性を想定しておく必要があります。現金購入層、業者、地元資産家、信用金庫取引のある法人など、誰に売るかまで考えるのが実務です。
利回りは、表面から出口まで段階的に削って見る。規模拡大フェーズでは、表面利回りよりもDSCRとCCRを重視します。さらに築古物件では、5年後・10年後の売却価格がIRRを大きく左右します。
価格の逆算:いくらなら買えるのか
収益物件は「売主希望価格」から考えるより、投資家側の必要利回り・融資条件・修繕見込みから逆算した方が判断を誤りにくくなります。ここでは、A物件の適正購入価格を3つの角度から逆算します。
① NOI利回りから逆算する
逆算式 購入許容価格 = 安定NOI ÷ 目標NOI利回り 安定NOI 9,527,194円、目標NOI利回り5.2%の場合:9,527,194円 ÷ 5.2% = 約1.83億円。
② DSCRから逆算する
DSCRは「NOI ÷ 年間返済額」で、返済余力を測る指標です。規模拡大を考えるなら、物件単体で1.20〜1.25以上、できれば1.30に近づけたいところです。
DSCR基準で見た購入許容額
| 条件 | 結果 | 判断 |
|---|---|---|
| 安定NOI | 9,527,194円 | 通常運営ベース。 |
| 目標DSCR 1.25 | 年間返済上限 約7,621,755円 | NOI ÷ 1.25。 |
| 借入可能額の目安 | 約1.50億円 | 金利2.0%・25年返済の場合。 |
| 借入80%前提の購入許容額 | 約1.87億円 | 2億円満額ではDSCRがやや弱い。 |
③ 修繕費から値引き根拠を作る
価格交渉では「利回りが合わないので安くしてください」だけでは弱いです。売主・仲介・金融機関に説明できる交渉材料は、具体的な未実施修繕、検査済証なしによる融資制約、空室解消費、近隣成約賃料との差です。
価格交渉に使える減額要因
| 減額要因 | 概算影響額 | 交渉での使い方 |
|---|---|---|
| 空室1戸の原状回復・募集費 | 20〜40万円 | 空室解消コストとして明示。 |
| 屋上防水・外壁調査未実施 | 200〜900万円 | 見積取得後に具体化。 |
| 給排水管・EV更新リスク | 500〜1,400万円 | 築年数から将来支出として織り込む。 |
| 検査済証なしによる融資制約 | 価格ではなく買主限定要因 | 出口流動性の低下として交渉材料にする。 |
| 現実的な交渉目線 | 1.85〜1.90億円 | DSCR・NOI利回り・修繕余力から見た目線。 |
実務結論 2億円で買うなら、自己資金を多めに入れて返済比率を下げる、または取得後すぐに賃料改善・空室解消・管理費削減を実行する必要があります。逆に、1.85〜1.90億円まで価格が下がるなら、DSCR・NOI利回り・出口の余裕が改善し、検討しやすくなります。
物件選定の実務チェックポイント
一棟物件のデューデリジェンスでは、立地、建物、権利、法令、賃貸運営、融資の6つを分けて確認します。数字が良く見える物件ほど、資料の裏取りが重要です。
立地:駅距離だけでなく、賃貸需要の厚みを見る
A物件の立地評価マトリクス
| 評価項目 | 内容 | 評価 | 確認すべきこと |
|---|---|---|---|
| 駅距離 | 近鉄沿線・駅徒歩10分 | △ | 徒歩10分は許容範囲だが、築古単身物件では競合に負けやすい。 |
| 生活利便性 | スーパー、コンビニ、病院、飲食店 | ○ | 単身者・外国籍入居者・高齢者需要との相性を確認。 |
| 競合供給 | 周辺築古マンション・アパート | △ | SUUMO、HOME'S、at homeで空室数と募集賃料を調査。 |
| 用途地域 | 商業地域・容積率400% | ○ | 将来の土地利用・建替え余地として加点。 |
| 接道 | 北側5.45m、接道12.2m | ○ | 再建築・担保評価・出口で重要。 |
| 検査済証 | なし | × | 融資・改修・売却時に制約。法適合状況調査を検討。 |
建物:築29年鉄骨造は「見えない設備」に注意
新耐震基準後の建物である点はプラスですが、築29年では内外装よりも、給排水、屋上防水、外壁、エレベーター、電気設備の劣化を重視します。外観がきれいでも、配管・防水・EVの支出は避けられません。
築29年鉄骨造マンションの主要修繕リスク
| 項目 | 費用目安 | 確認資料 | 優先度 |
|---|---|---|---|
| 屋上防水 | 200〜350万円 | 施工履歴、保証書、漏水履歴 | 高 |
| 外壁塗装・タイル補修 | 600〜900万円 | 打診調査、見積、長期修繕履歴 | 高 |
| 給排水管 | 300〜600万円以上 | 漏水履歴、管種、更新履歴 | 最高 |
| エレベーター | 500〜800万円 | 保守契約、部品供給、更新提案書 | 最高 |
| 消防設備・受水槽等 | 100〜300万円 | 点検報告書、是正指摘 | 中 |
| 大規模修繕合計 | 1,700〜2,950万円 | 5〜10年内に集中する可能性 | — |
検査済証なしの扱い 検査済証がないことは、即座に違法建築を意味するわけではありません。ただし、金融機関、買主、改修工事、用途変更の判断ではマイナス要素になります。確認済証、建築計画概要書、台帳記載事項証明、設計図書、増改築履歴を集め、必要に応じて建築士による法適合状況調査を行うべきです。
賃貸運営:入居率95%でも安心しない
現況19/20戸は良好に見えますが、投資家が知るべきなのは「今埋まっているか」ではなく、退去したときに何日で、いくらで、どの費用をかけて埋まるかです。
確認する資料 賃貸運営の裏取り資料 レントロール原本 賃貸借契約書のサンプル 入居申込書・保証会社情報 滞納一覧・督促履歴 過去2年の入退去履歴 原状回復費の実績
現地で見るポイント 入居者目線の競争力 共用部の清掃状態 ゴミ置場・駐輪場の乱れ メールボックスの管理状況 防犯カメラ・照明 室内設備の古さ 周辺競合の募集条件
築29年物件は、取得後5〜10年の修繕集中を前提に見る。築古物件は「今のCF」だけでなく、「将来の支出予定表」を持って買うことが重要です。修繕見積を取らないまま高レバレッジで買うと、黒字物件でも資金繰りが詰まる可能性があります。
融資戦略と返済比率の管理
規模拡大フェーズでは、「この物件が買えるか」だけでなく、「この物件を買った後も次の融資が受けられるか」を見る必要があります。返済比率が高い物件を積み上げると、資産規模は増えても金融機関から見た安全性が下がります。
融資条件別のキャッシュフロー
A物件 融資条件別シミュレーション(安定NOI 9,527,194円基準)
| シナリオ | 融資条件 | 返済・判定 |
|---|---|---|
| フルローン | 借入額:2億円 金利:2.5% 期間:30年 |
年間返済:9,482,902円 DSCR:1.00 税引前CF:44,292円 判定:不可に近い |
| 1割自己資金 | 借入額:1.8億円 金利:2.5% 期間:30年 |
年間返済:8,534,611円 DSCR:1.12 税引前CF:992,583円 判定:薄い |
| 2割自己資金 | 借入額:1.6億円 金利:2.0% 期間:25年 |
年間返済:8,138,003円 DSCR:1.17 税引前CF:1,389,191円 判定:要交渉 |
| 3割自己資金 | 借入額:1.4億円 金利:2.0% 期間:25年 |
年間返済:7,120,753円 DSCR:1.34 税引前CF:2,406,441円 判定:安全寄り |
| 金利+1% | 借入額:1.6億円 金利:3.0% 期間:25年 |
年間返済:9,104,857円 DSCR:1.05 税引前CF:422,337円 判定:弱い |
DSCRの読み方 DSCR 1.00は、NOIと年間返済額がほぼ同じで、税引前キャッシュフローがほとんど残らない状態です。1.17でも黒字ではありますが、修繕引当後に見ると余裕は薄くなります。規模拡大を続けるなら、物件単体で1.25以上、ポートフォリオ全体では1.30以上を目標にしたいところです。
築古・検査済証なし物件の金融機関選び
金融機関別の融資スタンス
| 金融機関 | 見られるポイント | この物件での課題 | 対策 |
|---|---|---|---|
| メガバンク・都市銀行 | 属性、担保、遵法性、耐用年数 | 築年数・検査済証なしが重い | 基本は期待しすぎない。 |
| 地銀・第二地銀 | エリア、取引実績、担保余力 | 期間が短いとCFが出ない | 既存取引・自己資金・修繕計画を提示。 |
| 信用金庫・信用組合 | 地元性、事業性、人物評価 | 柔軟に見てもらえる余地 | 管理計画、出口、他行借入一覧を整える。 |
| ノンバンク | 担保評価、スピード、収益性 | 金利が高くCFを圧迫 | 短期保有や借換前提なら検討。 |
DSCR 1.21は、規模拡大フェーズではやや薄い。金融機関に対しては「利回りが高い」ではなく、「返済原資、修繕原資、出口戦略が説明できる」ことが重要です。
融資面談で提出すべき資料
- 物件概要書、レントロール、固定資産税資料、公図・謄本・測量図
- 現況写真、修繕履歴、今後5年の修繕計画
- 募集条件、空室改善計画
- 購入後収支シミュレーション、金利上昇シナリオ、DSCR試算
- 既存保有物件一覧、借入一覧、確定申告書または決算書
- 出口戦略:5年後・10年後の売却想定と買主属性
規模拡大フェーズのポートフォリオ設計
1棟目・2棟目までは物件単体の収支で判断しがちですが、3棟目以降はポートフォリオ全体の安全性が重要になります。金融機関は、個別物件だけでなく、既存借入、総資産、返済余力、修繕リスクの集中を見ます。
ポートフォリオ健全性チェック
| 指標 | 意味 | 目安 | A物件追加時の論点 |
|---|---|---|---|
| LTV | 総借入 ÷ 総資産 | 70%以下を目標 | 物件単体80%借入だと、全体LTVが上がる。 |
| DSCR | NOI ÷ 年間返済 | 1.25以上 | A物件単体では1.17前後。余裕が薄い。 |
| 築年数分散 | 築古物件への偏り | 修繕時期を分散 | 築30年前後が複数あると修繕資金が同時に必要。 |
| エリア分散 | 特定地域への集中 | 1エリア過度集中を避ける | 大阪市内に既存物件が多い場合、地域リスクが増える。 |
| 間取り分散 | 単身・ファミリー・店舗等 | 需要層を分ける | 単身向けが多い場合、競合増加に弱い。 |
| 現金余力 | 手元資金 ÷ 年間返済・修繕 | 最低6〜12か月分 | 大規模修繕前の物件取得は現金を厚く残す。 |
この物件を買ってよい投資家・慎重にすべき投資家
FIT 検討しやすい投資家 自己資金を厚めに入れられる 大阪市内の賃貸運営に詳しい 修繕費を別枠で確保できる 信用金庫・地銀との取引実績がある 出口で業者・地元投資家へ売る導線がある
CAUTION 慎重にすべき投資家 フルローン・オーバーローン前提 毎年の手残りを重視している 大規模修繕費を見ていない 既存物件も築古に偏っている 検査済証なしの融資・出口経験がない
購入前チェックリスト
最後に、A物件のような築古一棟マンションを検討する際の実務チェックリストを整理します。すべてを満たす必要はありませんが、未確認項目が多い状態で買付を出すのは危険です。
最終判断チェックリスト
- 安定NOIを自分で再計算したか満室賃料ではなく、空室損失・管理費・税金・保険・修繕・募集費を入れる。
- DSCRが1.25以上に近づく条件を作れているか価格交渉、自己資金増額、金利条件改善、返済期間の調整で対応。
- 取得諸費用と初期修繕予備費を自己資金に含めてCCRを計算したか頭金だけでCCRを計算しない。
- 大規模修繕履歴と今後5年の修繕見積を確認したか屋上防水、外壁、給排水、EV、消防設備は重点確認。
- 検査済証なしについて、金融機関の融資可否を事前確認したか確認済証、台帳記載事項証明、法適合状況調査の要否を確認。
- レントロールの賃料が市場賃料で再現可能か確認したか退去後に同じ賃料で決まるとは限らない。
- 滞納、短期解約、外国籍入居者、高齢者入居の管理体制を確認したかリスクではなく、管理方法を把握することが重要。
- 空室1戸の原状回復費、AD、募集期間を見積もったか取得後すぐの改善余地と支出を把握。
- 出口価格を表面利回り・NOI利回りの両方で逆算したか5年後・10年後にどの買主が買えるかまで想定。
- 既存ポートフォリオ全体のLTV・DSCR・築年数分散を確認したかこの一棟で次の融資枠を潰さないかを確認。
A物件に対するプロ視点の総合評価 この物件は、現況稼働率と表面利回りだけを見れば検討対象に入ります。しかし、築29年・鉄骨造・検査済証なし・7階建という条件を踏まえると、 2億円満額で取得して安定的に高いキャッシュフローを得る物件ではありません。 投資適格に近づけるには、①価格を1.85〜1.90億円付近まで交渉する、②自己資金を3割程度まで厚くしてDSCRを改善する、③大規模修繕費を事前に見積もり、取得後の現金流出を管理する、④出口時に売却できる買主層を明確にする、という条件が必要です。 結論としては、 「買ってはいけない物件」ではなく、「表面利回りだけで買うと危ない物件」 です。資金余力、金融機関、修繕管理、出口戦略を持っている投資家には検討余地がありますが、フルローン前提・手残り重視の投資家には適合しにくい案件です。
参考・注記
本記事の計算は、提供された物件条件をもとにした概算シミュレーションです。実際の投資判断では、売買契約書、重要事項説明書、登記簿、公課証明書、レントロール、賃貸借契約書、修繕履歴、金融機関の融資条件、税理士・建築士・弁護士等の専門家確認が必要です。
法定耐用年数や建築確認・検査済証、DSCR等の定義については、国税庁・国土交通省等の公的資料を確認してください。なお、税務・融資条件・金利・法令運用は時期や個別事情によって変わります。